ダイバー外来について

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ダイバー外来設立の経緯

当院にダイビング後のトラブルを抱えた患者が多数来院するようになり、最初は頭にある知識で対処していましたがどうも納得がいかなかったので、 自分でもダイビングを始めることにしました。ダイビングによる圧外傷は非常に多彩なうえ、北海道では実際にダイビングをする耳鼻咽喉科医があまりいません。上記の2点から、ダイバー外来を設立するに至りました。

耳鼻咽喉科の関与の重要性について

ダイビングの事故は極めて致命率が高いが、事故率は比較的低く安全と言われています。一方、軽症のトラブルの多くは中耳腔、鼻腔などの中空臓器に対する圧外傷であり、ほとんどが耳鼻咽喉科領域の出来事です。しかし、ダイバーが耳鼻咽喉科を受診すると、ダイビングの中止を勧告されることが多く、ダイビングに理解のある耳鼻咽喉科施設の存在が、ダイビングの普及に必要と考えます。

ダイバー外来の役割

  • 耳鼻咽喉の点検
  • 耳抜き指導
  • スクイーズの原因疾患に関する治療
  • 安全潜水に関する指導
  • プロフェッショナルダイバーへの支援

ダイビング中に起こりやすい圧外傷

  • 中耳、内耳の圧外傷(スクイーズ)
  • 副鼻腔圧外傷(スクイーズ)
  • 歯の圧外傷(スクイーズ)
  • 窒素酔い、酸素中毒、CO2中毒
  • Air Embolism
  • 肺の破裂
  • 各種減圧症

ダイバー外来受診者の分布

詳しくは こちら をご覧ください。

スクイーズとは?

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耳スクイーズとは

鼓室腔の圧力を調整できずに耳が痛くなる現象です。軽症ならば耳抜きにより症状は消えますが、解消できない場合は鼓室内に滲出液が発生したり、血管が破綻して鼓室内血腫が生じて圧平衡が完成します。また、急激な圧変化に耐えられない場合はピンホール状の鼓膜穿孔を生じます。「航空性(気圧性)中耳炎」と同じ症状です。

ピンホール鼓膜
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ピンホール鼓膜
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平手打ち鼓膜
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耳スクイーズの要因

技術的要因による「耳抜き」不全
初心者の多くは「耳抜き」そのものが理解できず、技術を獲得できていない場合があります。あるいはある程度理解していても、技術的に未熟なために「耳抜き」が出来ない場合は、「耳抜き」の体得とともに問題は解決します。
病的要因による「耳抜き」不全
ウイルスあるいは細菌による炎症に伴い、耳管粘膜が浮腫を起こし一過性に耳管狭窄が生じたとき、あるいはアレルギーによって耳管粘膜が浮腫を起こして耳管狭窄を生じているときには「耳抜き」が難しくなります。この場合は初心者に限らずベテランダイバーにも耳のスクイーズが生じます。

鼻のスクイーズについて

前頭部痛型スクイーズ
頭蓋内中空領域を結ぶ管の中で最も細いのが耳管で、次に細くて長いのは鼻前頭洞管です。従って、鼻のスクイーズを起こす頻度が最も高いのが前頭部痛型となります。
頬部痛型スクイーズ
上顎洞と固有鼻腔を結ぶ自然孔は比較的大きな通路ですが、粘膜浮腫が強い場合は急性副鼻腔炎様の頬部痛が生じます。

両者ともウイルス性、細菌性、あるいはアレルギーにより鼻粘膜が浮腫を起こすことによって生じるため、最近は花粉症時期のダイビングによる鼻スクイーズが増加傾向にあります。

耳管機能検査と
耳抜きについて

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ダイバー外来で行う検査

  • 耳、鼻鏡検査
  • ファイバースコープ検査(耳、鼻、喉)
  • レントゲン(耳、鼻)
  • 純音聴力検査
  • ティンパノメトリー
  • 耳管機能検査
  • アレルギー検査

耳管機能検査について

当院ではダイバーの方に対し、機械を使って耳抜きの管が実際に開くかどうか調べる検査を実施しています。この検査は耳抜きが出来た瞬間に、画面に山が出来るようになっておりますので、自分が耳抜き出来ているかを目で確かめる事が出来ます。

ダイバーに関する耳管機能検査のメリット

  • 現在の耳抜き方法で本当に耳抜き可能か否か、他の耳抜き方法では可能か、視覚的認知ができる
  • 耳抜きが成功した時、機械の性質上、被検者が耳が抜けた音を聴覚的認知しやすい
  • 現在の耳管機能に問題がないか確認できる

ダイバーに対する耳管機能検査の手順

  • 耳抜きする
    身体部位の確認
  • ダイビング時の
    耳抜き方法の確認
  • 検査データの
    見方の説明
  • 検査方法の説明
  • 検査実施・結果説明
  • 耳抜き関連の
    プリント配布

耳抜きの方法

トインビー法

鼻を摘み、口はマウスピースにあてた状態で舌を上顎にあてる様に唾を飲む方法です。耳が『スポッ』といえば耳抜き成功です。

バルサルバ法

鼻を摘んだまま鼻をかむ様にする、というのが分かりやすい説明だと思いますが、強くかんでしまうのでは耳を痛める事もあるので、『なるべくやさしくゆっくり鼻をかむ』ようなイメージで行うと良いでしょう。 鼓膜の『スポッ』という感覚を感じられたら耳抜き成功です。

能動的時間開放

口蓋帆張筋という耳管を開く筋肉を意図的に動かし、耳抜きする方法です。

耳管通気

鼻から金属の管を入れて、耳に空気を5秒から10秒ほど入れる治療のことです。

耳の解放が行われる諸相

能動的耳管解放

嚥下運動で耳管が解放する

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トインビー法

鼻孔を閉鎖して嚥下すると軟膏蓋が鼻腔圧を高め耳管を開く

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バルサルバ法

鼻孔を閉鎖して呼気で鼻腔圧を高め耳管を開く

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通気法

通気圧で耳管を開く

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嚥下運動が起こると口蓋帆張筋が収縮して耳管を開き、中耳膣産出のガスが耳管を通って外に出ます(大気圧環境)。大気圧環境では常時中耳膣ガスが産出されていて、このガスはボイルの法則(Boyle’s law)に従って換気を行います。そしてその換気は毎回の嚥下運動耳管が開閉する時に咽頭に向かって排出されます。

耳が抜けない、抜けにくい原因について

形態的問題

人の体の器官は人それぞれ異なっているので、耳抜きする管(耳管)が極端に細かかったり、管の機能が極端に悪かったりする事が原因で耳抜きが出来ない場合もあります。

耳管の粘膜が腫れて空気の通り道が狭くなっている場合

原因としては、風邪などによる炎症、中耳炎、アレルギー性鼻炎、飲酒、タバコの吸いすぎ、粘膜の過乾燥、連日の過度なダイビングなどが挙げられます。

耳抜きのテクニックの問題

耳抜きというものが分かってない、抜けた状態や抜き方がいまいち分からない場合には、適切な指導を受けましょう。

過度の緊張

普段は耳抜きが上手に出来ていても、初めて潜る場所や水温、いつもと違う人と潜るなど緊張した精神状態になった時に耳が抜けなくなることもあるようです。

Q&A

リバースブロックって何ですか?
ダイバーが浮上時に中耳腔内(こうない)圧を大気圧に減少できない現象です。耳痛、目まい、ひどければ嘔吐(おうと)を起こし、危険な状態を招く恐れもあります。また、浮上できない恐怖からパニックを誘発しやすいという特徴もあります。副鼻腔炎、風邪、アレルギー性鼻炎などが背後にあり、無理なダイビングによって発症することが多いです。

耳を大切にダイビングをするための
チェックシート

耳抜きはわかりましたか?

まず、耳抜きはこういうものだ、と体得する事が大切です。耳が抜けると耳の奥で『パクッ』『パカッ』『スポッ』などと鈍い音を感じます。注意して聞いて見てください。分かりにくい人は、エレベーターなどに乗った時、一時的に耳の圧迫感を感じた際に耳抜きをしてみましょう。その時『スポッ』という音と同時に耳の圧迫感が解消されれば耳抜き出来た証拠です。

精神的な不安はありませんか?

ダイビングに関して不安があるようでしたら、どんな小さなことでも前もってバディやリーダーに相談してみましょう。

体調は万全ですか?

体の調子、特に鼻の調子が悪い時は耳の管も浮腫んで耳抜きしづらい状態になっています。当然、トラブルも起きやすくなってきます。潜りたい気持ちは分かりますが、そのような時は無理をせず、今後楽しくダイビングを続ける為にも控えたほうがいいでしょう。海は逃げていきませんので、自分の体を大切にしてあげてください。

潜り初めは慎重にゆっくり潜っていますか?

耳抜きに不安がある場合はフィートファーストの姿勢でゆっくり耳抜きしながら潜りましょう。また、ドライスーツやウェットスーツの首の部分の締め付けがきついと、耳抜きが困難になることもあるのできちっとフィットしたスーツを着用しましょう。

耳が一回抜けたからといって満足していませんか?

潜水時~3メートルくらいまでは気圧の変化がかなりあるため、特に慎重に耳抜きを何度もしてください。深く潜るたびに耳抜きを怠らない事が大切です。

耳が痛くなったのに潜ろうとしていませんか?

耳が痛くなったという事は、耳に無理が生じている証拠です。そのような時は無理に潜らないでください。たとえ潜れたとしても、浮上する時リバースブロックになりかねません。

無理にダイビング計画を立てていませんか?

一日に何本も潜ると耳管に徐々に負担がかかって耳抜きがしにくくなります。耳にも無理のないダイビング計画を立てましょう。

ダイビングを安全に楽しむために

ダイビングは簡単に非日常の無重力の世界を体験することができる魅力的なスポーツです。充分な準備と知識をもって臨めば決して危険なスポーツではありませんが、一方で、一歩誤ると致命的な事故に遭遇する可能性があるのも事実です。
思ったより手ごわいのが気圧の負荷です。想像以上のストレスが身体にかかってきます。
当院では、多くの人がより安全なダイビングを続けることができるようにお手伝いができればと願っています。